ジャズミステリー/落下する緑―永見緋太郎の事件簿/田中啓文/創元推理文庫

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rakka.jpg 「聴いたら危険!ジャズ入門」で感服した田中啓文さんのジャズミステリー。ジャズミステリーと言い切ってしまうとこぼれ落ちるものも多いかと思うが、まあいいでしょう。

ミステリーの骨格とも言うべきトリックとかは、驚くものではない。古畑任三郎に毛が生えたレベル。特にミステリー好きにとっては、最後まで読めてしまう。これは、何も今や総てのミステリーがすぐに犯人が読めてしまって仕方がない、というレベルの話ではなくて、まあ、自然と見えてくるレベルってこと。

だから、本格ミステリーを期待して読むと全くもって応えてくれないとは思う。だけど、まさか古畑任三郎のトリックがアガサクリスティーのバクりだから面白くない、と言う人が居ないように、この本の楽しむところは、ほかにたっぷりとある。

まず、天は二物を与えず、ジャズ演奏以外には興味がない、はずだが、天然の才能でガンガンと犯人を追い詰めていく永見緋太郎が凄い。あ、二物与えてるか。対して狂言回しでイライラしっぱなしの私、唐島英治と永見の絡みは、古畑任三郎と今泉慎太郎とのやりとりに匹敵する面白さで楽しめる。

そして、卓越した文章力。おそらく日本一だと思われる、ジャズの演奏の描写。本当にスバラシイ。著者は自らもサックスを吹いているのだが、まさに音楽の現場に居る人にしか書けない素晴らしさだ。もちろん、現場に居るだけでもだめ、文章力があるだけでもだめ。両者が絶妙なバランスの上に成り立っている著者の作品を読めるのは、まさに現代における奇跡だっ。

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このページは、吉岡孝が2012年7月 3日 12:01に書いたブログ記事です。

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